世界で一番映画の製作本数が多い国はどこでしょうか。
ハリウッドのあるアメリカ?いいえ、実はアジアの大国、インドなのです。
ボリウッドという言葉を耳にしたことのある人は多いかもしれません。
1995年のヒット作「ムトゥ 踊るマハラジャ」のような煌びやかな娯楽作を食わず嫌いしている人は、この「きっと、うまくいく」でインド映画のイメージが変わるでしょう。
確かに本作は煌びやかです。
登場人物は歌って踊って笑って騒いで、上映時間は長時間。
でもそんなインド映画らしいスタイルを守りつつ今の世情を映し問題提起をおこなう映画だから、その両立がすごいのです。
それでいて見終えた後に残る感情は、これまでにない「爽快感」でしかない。
171分であなたの価値観がかわるなら、これは見なくては損!
今回は、映画「きっと、うまくいく」のネタバレやあらすじ、感想と考察を詳しく解説していきます!
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映画「きっと、うまくいく」の作品情報
【公開日】
2013年5月18日(日本)
【上映時間】
171分
【監督】
ラージクマール・ヒラーニ
【製作】
ヴィドゥ・ヴィノード・チョープラー
【脚本】
ラージクマール・ヒラーニ、 ヴィドゥ・ヴィノード・チョープラー、ジット・ジョーシ
【出演者】
- アミール・カーン(ランチョー)
- R・マドハヴァン(ファルハーン)
- シャルマン・ジョシ(ラージュー)
- カリーナ・カプール(ピア)
- ボーマン・イラニ(学長)
- オミ・ヴァイディア(チャトル)
映画「きっと、うまくいく」のネタバレあらすじ
消息不明の親友が、見つかった?!
ある年の9月5日のこと、ファルハーンとラージューへ大学時代の旧友チャトルから連絡が入りました。
卒業以来行方不明になっていた親友、ランチョーが見つかったというのです。
10年前、学生だったチャトルは「10年後の9月5日に、どちらがより成功した人間か賭けよう」とランチョーを挑発しており、ファルハーンとラージュ―のふたりはその賭けの結果の承認として呼ばれたのでした。
しかし約束の地にランチョーは現れず、ふたりは居場所を知るチャトルとともにランチョーがいるらしい避暑地シムラへと向かいます。
学歴社会のインドで、難関大学に入学した3idiots(3のバカたち)!
時は戻り、彼らの学生時代。
貧富の差が激しいインドでは、生活レベルの格上げに学歴はつきものでした。
そんななか屈指の難関工学部に合格した若者たち。
写真家になりたい夢を抑え込み、父親の命令に従い工学部やってきたファルハーン。
貧しい生まれで家族のために良い仕事に就きたいラージュー。
そして好奇心にあふれ物怖じしない化学の天才、ランチョー。
ランチョーは理不尽なことや信念に反する事態には声をあげる、勇気ある青年でした。
「All is well(うまーくいーく)」
困ったとき、苦しいとき、まじないのように「うまーくいーく」と唱えて物事を解決する手段を見つけ出すランチョー。
上級生のいじめ、点数にこだわる学長、学歴に左右される社会、間違っていると思うことを指摘するその強い心に、ラージューとファルハーンは尊敬と信頼をおくのでした。
ルームメイトになった3人はランチョーを中心に、つよい絆で結ばれてゆきます。
良い成績と良い学問はイコールではないと訴えるランチョー
「僕は辞める」
そう言葉をのこした4年生の先輩が校内で首つり自殺をしていたのがみつかります。
新しい研究に信念を燃やす未来ある学生であったのに、学長は彼の学びの姿勢ではなく卒業制作の期限だけで評価したのです。
期限が守れないなら留年、それがいかに価値ある研究だったとしても。
家族と出身地に恥をかかせたと悲観した先輩は、自ら死を選んでしまったのでした。
はたしてこれは自殺なのか?学校での圧迫を受け、そんな教育方法を行う社会に殺された被害者ではないのか。
学問ではなく点の取り方を教えることが教育ならば、学びの意味とは何だろう。
点数にこだわるあまりインドでは90分に1人の学生が自殺をする、なぜ大学は、社会はこのことを問題視しないのか?
ランチョーは学長へ詰め寄りますが、態度に問題のある学生というレッテルを張られるばかりなのでした。
ランチョー、美しきピアとの出会い
あるとき、ランチョーはタダ飯目的で紛れ込んだ結婚式でピアと出会います。
美しい医学生であるピアは、なんと学長の娘でした。
結婚式はピアの姉のもので、ピア自身も婚約者の居る身でした。
父親である学長にくってかかるランチョーに腹を立てていたのもつかの間、物事の本質を見抜く目をもったランチョーの魅力に気づくまでに時間はかかりませんでした。
ランチョーは偽物だった?天才の親友の正体とは
再び10年後の9月5日。
ファルハーン、ラージューはチャトゥルとともに避暑地シムラにやってきました。
ランチョーと名乗る男を見つけ出すものの、それは彼らの知る親友ランチョーではありません。
なんとその男こそがランチョーで、名家に生まれたものの学問の能力に恵まれなかったその男は、幼少から勉強に秀でた庭師の息子を自分の影武者として大学にいかせ学位を得ていたのでした。
これが、ランチョーが卒業した後に消息を絶った理由だったのだ!合点がいった3人でした。
本物のランチョーは、この事実を秘密にすることを条件に3人に影武者ランチョーの居場所を伝えます。
誰もが学位の取得のため、学歴のために大学にいくなか、ランチョーは授業そのものと学問の取得が目的で大学に来ていた。
そして卒業後に彼自身の名前では学位を得ることもなく消息を絶った。
その事実がファルハーンとラージュ―の胸をあつくします、あの尊敬すべき親友に果たして会えるだろうか。
情熱をもやすことに生きなくては、人生は無意味だ
最終学年を迎えた3人組。
卒業を前に自身の将来を見詰めなおすとき、ランチョーは親友たちに問いかけます。
お前たちは何に情熱を感じている?
写真家になる夢を心にしまい込むファルハーンに、臆病に神頼みするばかりで勉強に集中できないラージューに、情熱に耳を傾けろと説得します。
しかし2人にも言い分がありました。そういうお前はピアに愛を告白する勇気もないじゃないか!
そのままの勢いでピアの家へと向かう3人組、ランチョーは無事に愛の告白をすることに成功します。
しかし忍び込んだピアの家は、つまり学長の家。
酩酊状態だったラージューだけが学長に顔を見られてしまい、深夜に家に忍び込んだ責任として退学を言い渡されてしまいます。
それが嫌ならば、身代わりにランチョーを差し出せば取り消そう。
学長の提示した条件に苦悩したラージューは抗議の意思を示そうと窓から飛び降りてしまいます。
一時は植物状態となったものの、友人たちの必死の介護で意識を取り戻したラージュー。
支えてくれる友人から勇気をもらったラージューは、肌身離さずつけていたおまじないの指輪を捨て去り、自信をもって仕事の面接へ。
臆病だった自分と決別し力を出し切り、見事希望の就職先を得たのでした。
一方のファルハーンも、そんなラージューの姿に背中を押されるようにして父親のもとへゆきます。
本当はエンジニアにはなりたくない、写真家になりたいのだと伝えるために。
世間のためではなく父親にだけ理解してもらいたいのだ、収入が少なくても幸せになる道を選ぶことを許してほしいと。
見事卒業後の進路を勝ち取ることに成功した2人は、ランチョーと喜びを分かち合うのでした。
世間体のための結婚なら逃げだすんだ
影武者ランチョーを探す道中、ファルハーンとラージューは彼らと感じようにランチョーを探していたピアに連絡をとります。
その日はピアの結婚式の日。晴れて医者になっていたピアは自分の元を去ったランチョーを忘れようと元の婚約者との結婚を進めていたのです。
世間の目を気にした結婚なら抜け出すんだ、本当の恋人のもとへ連れて行くから。
かつてランチョーから学んだことを伝承するように必死に説得するファルハーンとラージューに心を打たれ、花嫁は式から逃げ出しました。
男ならエンジニア、女なら医者を目指さなくては負け犬な国、それがインド
無事に卒業後の就職を決めたラージュ―でしたが、卒業試験に合格しないことにはすべて水の泡。
3人組を目の敵にする学長が難関な試験内容を作っていることを知ったピアは、ランチョーに試験内容の保管場所を伝え盗み出すように提案します。
友人の卒業に出助けをしたい一心で試験を盗もうと夜の学校へ忍び込むランチョー。
カンニングはしない、実力で試験をうけると微笑んだラージューの心の成長に喜びを得たのもつかの間、学長はランチョーの犯行を見抜きました。
ランチョーを激しくせめたてる学長に、ピアはこれまで隠していた秘密をうちあけます。
「兄さんのように学歴のために自殺する生徒を出したくなかったから私が盗みを提案した、作家になりたかった兄さんをエンジニアにしようとしたから入試前に自殺したのよ」
息子の死を事故だと思っていた学長はピアの言葉に絶句します。
マシーン技術は何のためにある?人間を助けるためにあるのだ
退学を言い渡されたランチョーは荷物をまとめて出ていく準備をしていました。
外は大雨、そんななか学長の車が道路で立ち往生しているのを見つけます。
後部座席ではピアの姉モナが、破水したお腹をかかえて苦しんでいました。
大雨による洪水でピアの待つ病院に行くことをあきらめたモナは、ランチョーら工学部の生徒たちとともに校内での出産に挑むことになりました。
病院からピアは電話で指示をだし、生徒たちが即席で出産に必要な医療器具を作りはじめます。
うろたえるばかりの学長を後目に、エンジニアの卵たちは学問を用いて目の前の命を救ったのでした。
無事に生まれた孫を抱き、学長は言います。
「お前は、自分がなりたいものになりなさい」
ランチョーの退学は取り消し。
首席で卒業した彼は、そのまま姿を消してゆきました。
点数のための勉強はもうヤメよう、生きた教育こそ未来を創る
本物のランチョーに聞き出した影武者ランチョーがいるという北部の僻地、そこには小学校がありました。
生徒たちは自由な発想で工具を作り出し、自分がしたい発明をのびのびと行い、学問を活用しています。
ランチョーが化学の先生となり、その教えを引き継いだ子供たちが学歴のためではない本物の教育をうけていたのです。
「成功を追うのは間違いだ、優秀なら成功はあとからついてくる」
教育の信念を見事実現させたランチョーとの10年ぶりに再会を果たした3人組、そしてピアは喜びを分かち合います。
「ランチョーでないなら、本名は何なの?」
ピアに答えたその名は、フンスク・ワングル。
聞き覚えのある名前、それは山のような数の発明で特許を取得していることで有名な科学者なのでした。
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映画「きっと、うまくいく」考察と感想
爽快な映画を探しているなら、これ以外ナシ!
あまりに名作すぎるので、いろいろと言いたいことが溢れてきます。
きっとすでに見たことがある観客の皆様とはこの気持ちをシェアできるでしょう。
しかし根底に描かれた作品のテーマを語るより先に、見終えたときの感情のお話をしましょう。
爽快、たまらなく爽快、あまりにも爽快!
「ミッション・インポッシブル」の爽快さでなく「ワイルド・スピード」の爽快さとも違います。
信念をもって自分の道を行ったものが、その信念に共感した人々に認められて成功する姿…筆者にとっては、この爽快さはどの映画でも見たことがない新しい体感でした。
認められるべきものが認められること、認めるべき人間を讃える素晴らしい人々がいること。
じつはちょっといたずら好きな面も持ち合わせた3人組ですが、それもいい具合のスパイスになって、スカッとする結末です。
ロケ地の美しさも圧巻、この最後のシークエンスの絶景は171分を3人とともにした観客への最後の土産です。
余韻の残る映画をお探しならば、「きっと、うまくいく」はぴったりの映画です。
活きた学問を得ることは、なぜ難しいのか?
爽快さがオススメな映画ですが、本作を語るうえで教育問題は避けて通れません。
インドが世界でも特に学歴社会であるということは、知っている人も多いでしょう。
形上廃止されたカースト制度も文化として根強く、生まれながらに生きる道が決まってしまう人が数多くいます。
そんな中、幸運にも自分の人生と家族の人生をランクアップできるかもしれないエンジニアへの学びを進むことができたなら…
想像しただけでもプレッシャーで押しつぶされてしまいそうです。
本作の中ではラージューがとくにそのプレッシャーに悩まされる描写がありますが、食べ物もろくに買えない家庭から難関大学の合格生がでたときの喜びを想像すれば、その息子が退学になる絶望が現実に自殺を誘発するのも理解に苦しくありません。
自分の試験の結果が明日の家族の食卓を支えているのだ、そんな思いを背負っていれば実力を発揮するのは難しい。
しかし本来、教育とは命を守るために人間が生み出したことであり、生きていくための学問であってこそ教育なのです。
学校は点数をとるための勉強をするところなのか?
学問のための学びではないのか?
たびたび出てくるランチョーの教育体制に対する訴えは、ずしりと胸に響きます。
映画「きっと、うまくいく」の評価とまとめ
日本では義務教育の終了後、高等教育の道を進む人が多くいます。
しかし果たして、そのうちの何パーセントが、学歴のためではない知識の学びを得ているでしょうか。
とくに学歴社会が問いただされるインドの社会問題が描かれた本作ですが、教育の過ちを叫ぶランチョーの言葉に、心が揺さぶらた人は世界中に数多くいるはずです。
そしてこう思っているはず、ああ、なんでもっと自分のために勉強しなかったのだろう。
手遅れになる前にこの映画を見られた学生のみなさんは、誰よりも幸運です。
しかしすでに卒業してから見るみなさんもまた、人生で1日も若い日にこの映画が見られたら幸運です。
考えてください、「人間にはなぜ教育が必要なのか」を。
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