「シング・ストリート 未来へのうた」は「ONCE∼ダブリンの街角で」や「はじまりのうた」など多くの上質な音楽映画を生み出した監督ジョン・カーニーが描く青春映画の金字塔です。
男子高校生が年上の女の子を振り向かせるためにバンドを結成。少年が彼女への想いを綴った歌詞にのる輝くメロディーの数々。
音楽好きの兄から受ける学校の授業よりも大切なロックの授業や、経験やお金が無くても憧れだけで突っ走れる十代のパワーなど、好きと言う気持ちの原動力の素晴らしさを噛み締められます。
そして80年代ブリティッシュ・ポップロックが劇中にたっぷりと流れる映画「シング・ストリート 未来へのうた」のネタバレあらすじや感想考察と評価など、総合的な情報をお届けします。
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目次
映画「シング・ストリート 未来へのうた」の作品情報
【公開日】
2016年7月9日
【上映時間】
106分
【監督】
ジョン・カーニー
【脚本・制作】
ジョン・カーニー
ゲーリー・クラーク
【出演者】
コナー・ロウラー:フェルデア・ウォルシュ=ピーロ
ラフィーナ:ルーシー・ボイントン
ブレンダン:ジャック・ライナー
エイモン:マーク・マッケンナ
ダーレン:ベン・キャロラン
「シング・ストリート 未来へのうた」あらすじとタバレ
1985年アイルランド ダブリン。
小さな部屋でフォークギターをポロポロと鳴らしながら、隣の部屋から聞こえてくる両親の夫婦喧嘩を聞き流す14歳の少年コナー・ローラー。
長く不況に見舞われていたアイルランドで暮らす人々は、貧しい生活を送っていた。
コナーの家族もそのうちの一家族であった。
ある朝の家族会議、コナーは生活費節約のためにカトリックの公立高校へ転校を命じられるのだった。
不満は募るも、間もなく新しい学校SYNG STREET高校に通学か始まったコナー。
雄々しくあれと教育精神を掲げるこの学校は、不良ばかりの最悪な高校。
ケンカ、弱いものいじめ、騒々しく授業にならない授業。地味で冴えない転校生のコナーだったが、最悪なことに校内トップのいじめっ子バリーに目をつけられてしまう。
コナーの楽しみは、音楽好きで何でも知っている兄ブレンダンと一緒にミュージックTV番組を一緒に観ることだった。
この日の夜はイギリスのポップバンド、デュラン・デュランのMVが流れた。
兄は「MVはアートだ」と語り、音楽情勢の流行りや、うんちくを交えてコナーに、デュラン・デュランの凄さを教えてくれるのだった。
コナーは兄からの音楽教育をしっかりと受け、目を輝かせてテレビ画面を眺めるのであった。
新しい出 い、恋とバンド。
通学2日目、不良たちが唯一言う事を聞く鬼教員のバクスター校長から、校則である黒の靴を履いていおらず呼び出しをくらうコナー。
お金が無くて買えないことを訴えるも、理不尽に今履いていたブラウンの靴を取り上げられてしまった。
いじめっ子のバリーからは顔面パンチを浴びる始末で気分は最悪だった。
すると突然、赤毛の男の子がコナーに声をかけた。
彼はダーレンと名乗り、生徒内の暗黙のルールなどを簡単に教えてくれた。
おまけに「なにかあったら連絡して。」と手作りの名刺をコナーに渡した。
職業はコンサルタントと書かれていた。
ダーレンと一緒に下校をすると校門のすぐ向かい側に立つ美少女がいた。
全身デニムでとてもファッショナブルで都会的。
コナーは彼女に一目惚れした。
ダーレンは眼を奪われているコナーに「あの女には年上の彼氏がいて、いつもスカしてああやって立ってる。しかも誰とも口聞かないんだ。」と彼女のことを説明した。
コナーは、そんなこともお構い無しにすぐ彼女に話しかけた。
彼女の名前はラフィーナ。
学校には通わず、モデルになるのを夢見ていつかロンドンに行くのだとコナーに聞かせた。
コナーの口から咄嗟に「よかったら俺のバンドのMVに出ない?動画だけど。」と飛び出した。
ラフィーナをスカウトして、彼女の電話番号をゲット。
もちろんコナーはバンドなんてしてない。
ただ、胸の中がざわついてときめいていた。
バンドSING STREET結成へ。
ダーレンをマネージャーに迎えてマネージャー紹介の元、次に向かったのは学校1番の楽器マニア、エイモンの自宅。
大きな眼鏡をかけリーゼント頭のエイモン。
不良っぽくなろうと大人ぶっていた。
でも肌は白いし、子離れのできないママからは離れられないし、大好きなペットのウサギたちがエイモンを完全に不良にはさせない。
ごく普通の高校生だった。
しかし、エイモンはいろんな楽器を使いこなすエキスパート。
ギター、ベース、ドラムはもちろん、 の民族楽器の数々までも操るのだった。
エイモンはコナーにバンドの詳細を尋ねるも、コナーにはまだバンドの目指す方向など無い。
音楽ジャンルに至っては「Futurist-未来型」とぶっ飛んだ回答をするくらいだった。
おもしろがったエイモンは、ギター・作曲担当でバンドに加入した。
ギターボーカル、ギター、マネージャーの3人組になったバンドは今後のことを話し合う。
マネージャーのダーレンが、「バンドにハクが付くから黒人を入れよう。」と提案し、黒人の集まる団地でンギクを見つけキーボードとして加入。
学校の伝言ボードにもバンド仲間の募集の貼り紙を1枚貼った。
それをみた男子2組、1人はモッズコートを、もう1人はレザージャケットを着たロック好き丸出しの少年たちがベースとドラムで加入した。
バンドは晴れて5人組+マネージャー、になり次はバンド名を決める会議。
学校名SYNGSTREETに掛けてSING STREETが結成したのだった。
ロックに触れるとき
さっそくSING STREETはデュラン・デュランのコピーソングで楽器を鳴らし練習に励んだ。
練習の成果をカセットテープに録音し、自信満々に兄に聴かせるコナー。
しかし、兄はテープを聞くなり「この世で最も最低な音楽」と酷評しテープをコナーの前で潰す。
ロックは上手にやろうとするんじゃない。
「ロックンロールはリスクを背負い覚悟を持つんだ。」と兄からの熱いロック魂の授業が始まる。
兄の教育を受けたコナーは、ラフィーナをミューズに起いて歌詞の創作に取り組んだ。
出来上がった詩を早速エイモンに聞かせた。
エイモンはコナーの意図をくみ取り、その場で簡単なメロディを作った。
メロディを聞いたコナーは胸が踊り、アイディアが次々と湧く。
エイモンに、「あれは?これは?」と湧き出るアイディアを投げ2人はオリジナルの一曲が出来ていく喜びを噛みしめながら曲作りに没頭した。
MV撮影と彼女の彼氏
初のMV撮影当日。
スーパーマーケットの裏通りで、撮影の準備を始める。
寄せ集めた衣装を着て、ラフィーナからアドバイスを受けてメイクアップも施す。
メイクの小恥ずかしさを隠しながらロックミュージシャンとして振る舞うSING STREET。
お金のない高校生のアイディアをかき集めた手作り感満載のポップロックMVが完成したのだった。
日はとうに暮れた帰り道、彼女を自転車にのせて家まで送るコナー。
玄関前に到着するやいなや、ラフィーナの彼氏が車で彼女を迎えに来た。
ヒゲを生やしイケた感じの大人な男を前にコナーは自分の子供っぽさに恥じらいを覚えるのだった。
完成したMVを兄に見せ、コナーは意見を聞く。
そして恋の相談も。「彼女には年上のカッコいい彼氏がいるから、僕には振り向かないよ。」と下に構えるコナーに「その男、車で何の曲聞いてた?」と尋ねる兄。
「ジェネシス」とコナーが応えると兄はすぐに「そんなの敵じゃないな。フィル・コリンズを聴く男に女は惚れない」と真剣な眼差しでコナーに言うのだった。
兄から宿題だと渡されたLPを抱えて、エイモンの自宅へ尋ねるコーナー。
宿題はジョー・ジャクソンやザ・ジャムのLP。
カッコイイ音楽に感化された2人は止まらずに深夜の曲作りに励むのだった。
みるみるうちに、歌詞にメロディが付き、伴奏がつき、アレンジが始まり、そしてバンドで音を鳴らす。
最高にポップなロックソングが出来上がった。
出来上がったデモテープを渡されたラフィーナはそれを聴くなり、コナーの音楽に励まされるようになっていた。
悲しみの中の幸せ、そして本気の恋
コナーは、バンドマンとして誇りを持ち始めて、ビジュアルにもこだわるようになってきた。
髪を染めメイクアップをして登校した。
その変貌ぶりに校長は目をつけ、暴力でコナーを叱るのだった。
落ち込んだ気分のまま、コナーはラフィーナからもうすぐ彼氏とロンドンに行くのだと聞かされる。
彼女を応援したいのに嫉妬してしまい、うまく感情をコントロールできないコナー。
ラフィーナはそんな彼をお見通し。「悲しみからの喜びを知ることで愛を見つけられる」と彼女は告げ、彼のバンド活動にエールを送った。
コナーは帰宅後、兄に恋の相談。兄は明確にラフィーナを分析する。
そして次に渡された新しい宿題のLPはザ・キュアーのTHE HEAD ON THE DOOR。
「これが悲しみの中の幸福だ」と兄は語った。
宿題をこなしたコナーは見事な新曲ができ、第二弾MV撮影へ向かっていた。
電車に乗って海岸沿いまで来たSING STREET一行。
もちろんラフィーナも一緒だ。
今回はキラキラとした爽やかなギターポップが眩しいラブソング。
ラフィーナはMV撮影中に独断で突然、海に飛び込んだ。その姿は瑞々しく、美しかった。
コナーも海に飛び込み泳げない彼女を助けた。「なんでこんなことしたんだ」と尋ねるも彼女は「中途半端はダメ、いつも真剣に一生懸命やることが大事」とコナーに熱く言う。
本気を見せた彼女に、コナーは完全に恋に落ちた。
こみ上げる感情を抑えらずコナーは彼女にキスをした。
MV撮影が終わり、片付けながら海岸沿いをラフィーナと歩く。
晴れた日になると、ここからイギリスの大陸が見えるんだとコナーはラフィーナに話した。
それから、おじいちゃんのクルーザーを使えば自分たちの力だけでロンドンに行けるんだと話した。
ロックが少年の心を支える
バンド活動でコナーはどんどん変わっていた。
ビジュアルだけでなく、精神も。
いじめっ子のバリーにも堂々と立ち向かえるようになった。
妙な自信もついてきた。
そして学期末の講堂ディスコ、いわゆる文化祭のステージに出演しようとバンド仲間に提案するのだった。
家庭環境や経済状況がどれほど悪くなろうと、音楽の力でコナーは強くなれた。
次々と出来上がる曲も確実にクオリティが上がっていた。
そしてコナーはバンドをしている時だけ、音楽を鳴らしている時だけは、現実から離れて理想を描く世界に行けた。
それはみんなが仲良く笑顔でダンスするような楽しい世界に。
たとえどんなに現実は最悪であっても。
ラフィーナがロンドンに発ったことを人づてで聞き、また落ち込むコナー。
彼女への切ない想いがこみ上げ、曲作りにぶつけるのだった。
その数日後、ロンドンに行ったはずのラフィーナがダブリンにいた。
話を聞くと、彼女は彼氏と喧嘩して戻ってきたのだった。
そして彼女にとってロンドンでモデルをする夢は半ば強制的に幕をとじ、彼女は喪失感に襲われていた。
一方で文化祭のライブ本番が近づき、準備に励むバンドには活気があった。
勢いがついたバンドは、今ではいじめっ子のバリーをステージガードマンとして雇うくらいに成長した。
ロックスターの誕生、そして未来へ
ついにライブ当日。
30分と決められた短いパフォーマンス時間。
最初に鳴らした一発目の曲は観客のウケがよくすぐに会場のテンションは温まった。
十代の複雑な心を綴ったポップロックや彼女への想いを歌うラブバラードなどを次々と披露しあっという間にラストソングになった。
最後の曲は「校長に捧げる」とコナー。
湧き上がる歓声。
曲のタイトルはBrown Shoes,暴力教師とイジメをうたう曲だった。
ぶっ飛ばすギターサウンドは一気に会場のテンションをマックスに。
コナーはステージから、校長の顔面をかたどって作ったお面を大量に投げ、観客たちはお面を着けて踊りまくった。
ラフィーナがライブ会場に遅れてやってくると、ロックスターになったコナーがステージの上に。
彼はすごくセクシーでかっこよかった。
SING STREETの初ライブは最高の形で幕を閉じた。
その夜、コナーはラフィーナと共にイギリスへ行くことを決意。
知り合いもいなければ、お金もない。
でも彼女にはモデルとしての美貌、コナーにはロックとデモテープがある。
兄は2人の決意を聞くなり興奮した。すぐに兄の運転で海岸へと向かった。
夜明け前の海岸に着くと、兄は自身が密かに抱き続けていたロックミュージシャンになる夢を弟に託すのだった。
コナーとラフィーナの2人はおじいちゃんの小さなクルーザーに乗って大海原へ旅立つ。
2人の前には偉大な未来が待ち構えていた。
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映画「シング・ストリート 未来へのうた」の感想と評価
映画「シング・ストリート 未来へのうた」は男子高校生が恋した女の子を振り向かせるためバンドを結成する青春ストーリーです。
兄の宿題LPやBGMがブリティッシュロックファンを魅了!コナーが作る曲も最高な仕上がり!
兄がオススメする80年代ブリティッシュポップ・ロックは、当時のアイルランドの人にとってイギリスがどれほど夢の国に見えていたかを表現しています。
オシャレで、自由に自己主張をした歌詞はきっと若者にとって大きな勇気を与え続けたに違いありません。
また、コナーの曲作りにも兄から勧められたアーティストの影響が強く出ています。
この曲作りのバランスが見事。
それもそのはず、今回監督は特別に80年代の名曲メリーズ・プレイヤーを生んだダニー・ウィルソンの中心人物ゲイリー・クラークを招き、一緒に音楽を作りました。
その様子は映画のエンドロールでも確認できます。
80年代のポップソングエキスパートと共に作り上げた絶妙な青春ロックをぜひ堪能してください。
お金がなくてもアイディアで。
十代の冴えなかった少年がカッコ良くなれた理由。
憧れのスターと同じファッションをしたくともお金がない。
お父さんのタンスから引っ張り出した、それっぽい背広を着てみたり、サイズの合わない帽子を被ってみたり。
完璧なMVを撮りたくても、機材やスタジオはなし。
アイディアと工夫で乗り切った先に生まれるオリジナリティーがとてつもなくコナーたちをカッコよく魅せるのです。
背伸びをしようとして、いつのまにかそれが等身大で生きているという証拠。
等身大に生きている彼等が観ている観客の心を動かすのです。
監督ジョン・カーニーの得意技も磨きが!
時系列ごとに追うように自然なドキュメンタリー調でカメラワークやシーンが進む中、突然すっと次元が飛んでいたり現実から離れ、やりすぎないファンタジックな世界に引き込む手法が得意なジョン・カーニー。
今回の作品は、実話や監督の自伝が半分くらいあるとのこと。
また、人々のさりげない仕草や表情から読み取れる、日常の美と幸福感。今回は青春真っ只中の主人公だけあって切なさの中に光る美しさがと
ても良く描かれています。
あらゆる映画や音楽へのオマージュも含まれていて、映画オタクもしっかり楽しめる仕上がりとなっています。
映画「シング・ストリート 未来へのうた」の考察とまとめ
青春映画の金字塔となった「シング・ストリート 未来へのうた」映画のラストには、「全ての兄弟に捧げる」と監督から観客へメッセージが贈られます。
どんな時代であろうと、自分の置かれた環境が最悪でも音楽は人々に寄り添い、別の世界へ連れてってくれます。
そして、自分で何かをクリエイトすれば、どんなに最悪な環境でも自らの手で未来を切り開き成長できることを教えてくれます。
様々な壁を乗り越えてきた人、今まさに目の前に壁が立ちはだかっている人にとって、この映画は何か新しいきっかけを与えてくれるでしょう。
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