長らくニューヨークを舞台に都会派作品を作り続けてきたウディ・アレン監督が「それでも恋するバルセロナ」(2008)「恋のロンドン狂騒曲」(2010)に続いて、ヨーロッパを舞台に描いたロマンチックコメディ。
アカデミー賞では4部門でノミネート、見事脚本賞を受賞しています。
主人公のギルが焦がれてやまない華の都、パリ。誰もが恋に恋する世界一ロマンに満ちた街で繰り広げられる、甘くて感傷的な群像劇。
真夜中のパリでは、摩訶不思議なことが起きている?!そんな気持ちにさせられる、誰しもが持つ「憧れ」の感情を引き立てる物語です。
「昔はよかった」と口に出したことがあるすべての方にオススメしたい映画です。
また本作には、黄金時代のパリに集った今なお名高い芸術家たちがたくさん登場します。あなたは何人の伝説の芸術家を知っていますか?
今回は、映画「ミッドナイト・イン・パリ」ネタバレやあらすじ考察と見どころを詳しく解説していきます!
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目次
映画「ミッドナイト・イン・パリ」の作品情報
【公開日】
2012年5月26日(日本)
【上映時間】
94分
【監督】
ウディ・アレン
【製作】
- レッティ・アロンソン
- スティーヴン・テネンバウム
- ジャウメ・ローレ
【脚本】
ウディ・アレン
【出演者】
- オーウェン・ウィルソン(ギル)
- レイチェル・マクアダムス(イネズ)
- キャシー・ベイツ(ガートルード・スタイン)
- マリオン・コティヤール(アドリアナ)
- エイドリアン・ブロディ(サルバドール・ダリ)
- レア・セドゥ(ガブリエル)
- マイケル・シーン(ポール・ベイツ)
- アリソン・ピル(ゼルダ・フィッツジェラルド)
- トム・ヒドルストン(F・スコット・フィッツジェラルド)
- ソニア・ロラン(ジョセフィン・ベーカー)
- コリー・ストール(アーネスト・ヘミングウェイ)
映画「ミッドナイト・イン・パリ」のネタバレあらすじ
憧れのパリも、婚約者とは温度差があって...?
ハリウッドで脚本家として活動しているアメリカ人、ギル。ギルは成功した映画ライターのひとりとして活躍していましたが、自身のキャリアにマンネリを感じていました。
婚約中の恋人イネズと結婚したらパリに住みたい、パリにで小説が書きたいと夢見ていました。
イネズの父親の出張に便乗旅行でパリにやってきた二人は、イネズの旧友ポールとキャロルにばったり出くわします。
イネズは友人とともに観光する約束を取り付けますが、愛してやまないパリの地をこだわりをもって見て回りたいギルは乗り気でない様子。
それでも無理やり押し通されるかたちで友人らとともに観光へとむかったギル。
実はポールはかつてイネズが学生時代に憧れた人物で、それを知るギルは余計に友人たちとの行動に気分がのりません。
ヴェルサイユ観光では、ガイドさながらにパリの知識を披露するポール。
インテリな彼は素敵!とポールを称賛するイネズに、ギルはすっかり苦い顔。
イネズもイネズで、懐古主義で「昔の」パリに熱をあげるロマンチストなギルに呆れていたのでした。
真夜中のパリ、ギルは1920年代へとタイムスリップ!
懐古主義を「現代に対処できない夢見がちな間違った考え」とバッサリ否定するポールに、ギルはすっかりへそを曲げていました。
観光の後ダンスに向かった3人とは別行動で、ギルはひとり夜のパリをさ迷います。
深夜0時を知らせる鐘がパリの路地に鳴り響き、一台のクラシックカーがギルのもとへやってきます。
車に同乗した男女に誘われるままクラシックカーに乗り込んだギルは、パーティが行われているレストランへ。
パーティの様子にに違和感を感じたギルは、自分が1920年代のパリへタイムスリップしていたことに気が付きます。
パーティホストはジャン・コクトー!目の前にいるのは「グレート・ギャツビー」で有名なフィッツジェラルド!アメリカを代表する文豪と出会ったギルは困惑を隠しきれません。
フィッツジェラルドとその妻ゼルダと意気投合したギルは次のレストランへ。
そこには「老人と海」のヘミングウェイがおり、ガートルード・スタインを紹介すると提案されます。
ギルは自分が執筆中の小説をガートルードに批評してもらうため原稿をとりにレストランを飛び出します。
しかし次の待ち合わせ場所を決めていなかったことに気づきレストランに戻りましたが、そこには現代のコインランドリーショップがあるだけでした。
ピカソの愛人、アドリアナとの出会い翌朝、呆然としながらも夢のようだった体験をイネズに語るギル。
しかし当然のことながらイネズはギルの話を信じません。
夜を待って昨晩クラシックカーが迎えに来た場所までイネズを連れてきたものの、なにも起きずにイネズはひとりタクシーに乗り込んでしまいます。
そこへ再び深夜を知らせる鐘、そしてヘミングウェイが乗った車がギルを迎えにやってきました。
向かった先でギルを待っていたのは、ガートルード・スタイン、そしてパブロ・ピカソでした。
ギルはピカソに同行していた愛人のアドリアナと出会います。
その美しさに一目ぼれすると共に、自身と同じ思考を持つアドリアナに惹かれてゆくギル。
ココ・シャネルに憧れてパリへやってきたアドリアナもまた、小説家のギルに興味を抱いている様子でした。
アドリアナへの恋心を自覚していくギルイネズ
その両親と過ごす昼のパリもそこそこに、毎晩1920年代、夜のパリへ不思議なタイムトリップを続けるギル。
社交パーティ三昧のなかでアドリアナと再会を果たします。
どんな芸術作品もパリという街そのものには叶わない...互いにパリに恋した2人は、距離を縮めてゆくのでした。
サルバトーレ・ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエルに婚約者がいながらアドリアナに恋したことを相談し、心の迷いを自覚していくギル。
しかしギルに婚約者がいることを知ったアドリアナは、それに気分を害してギルを避けるかのように、ヘミングウェイとアフリカ旅行へ行ってしまいます。
ピカソと自分をおいて旅立ったアドリアナに思いを馳せるギルでしたが、スタインは彼の小説を気に入り、励ましの言葉をかけるのでした。
お互いに心が通じ合ったギルとアドリアナある週末の昼下がり
ギルは執筆の合間の散歩で蚤の市へレコードを買い求めに行きます。
そこで以前も蚤の市で出会ったレコード屋の娘とパリ話に花を咲かせるギル。
そして古本屋へ立ち寄ったギルはアドリアナの著書を見つけます。
知り合いの観光ガイドに翻訳をお願いして本を読むと、なんとアメリカ人の小説家に恋をしたという節が。
彼女も自分に気があることを確信したギルは、贈り物を携えてアドリアナに会いにいきます。
アフリカでヘミングウェイとうまくいかなかったアドリアナは、ピカソとも愛人関係を解消していました。
結婚に迷いがあることを告白し、アドリアナにキスをしたギル。
アドリアナもギルの愛を喜んでいるように見えました。
「昔はよかった」は昔の人も言っている
誰しも不満を抱えていることき気づいたギル真夜中の街角で話ふけっていたギルとアドリアナの前に、馬車が現れます。
同乗している男女に誘われるがまま馬車に乗り込んだギルとアドリアナ。
むかった先はなんと1890年代のパリ!1920年代からさらに昔のパリに、アドリアナが憧れた時代のパリへとタイムトリップしてきたのです!
マキシムでダンス、ムーランルージュでカンカン鑑賞、アドリアナは自分が夢見た時代のパリに夢中です。
そしてロートレック、ゴーギャン、ドガらと出会います。「彼らの絵は凄い、今の画家には描けないわ」そう言ったアドリアナの言葉は、ギルには皮肉なものでした。
21世紀の人間が1920年代の画家への称賛に同じことを言っているのだから。
そしてアドリアナが称賛した1890年代を生きるゴーギャンは言います。
「今の時代は空虚で想像力に欠けている、ルネサンス期に生まれたかった」
ギルが憧れるパリは1920年代、しかし1920年代からやってきたアドリアナには1890年が憧れの黄金時代なのです。
どれだけ輝いている時代に戻っても、その時代に生きる人々もまた過去に憧れを抱いていることに気が付いたギル。
憧れに近づいても、やはり別の憧れを見つけてしまい、満たされることはないのだと悟ったのです。
そう語ったギルの思考は作家だからたどり着く考えなのだ、心に従う私は憧れを追いたいアドリアナの思考はギルとは違いました。
1890年代に残りたいと懇願したアドリアナは、ギルに別れを告げるのでした。
憧れからの帰還
2010年のパリを選んだギル、それでもやっぱりパリが好き!2010年の現代へと帰ってきたギル。
ギルが自身を反映した小説を読んだヘミングウェイとスタインに「主人公の男は恋人の浮気に気が付いていない」と指摘されたギルはイネズにポールとの浮気を問いただし、イネズはそれを認めます。
浮気がなくても自分はパリからアメリカには帰ることはできなかっただろうと、ギルはイネズに別れをつげます。
真夜中の鐘、その日のギルはいつものクラシックカーが迎えに来る街角には行きませんでした。
充てもなく真夜中のパリをさ迷っていたギルに声をかけたのは、蚤の市で出会ったレコード屋の娘、ガブリエル。雨の降るパリが好き。
2010年のパリを自分と同じ思考で愛するガブリエルとともに、ギルは真夜中のパリを歩き出しました。
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映画「ミッドナイト・イン・パリ」感想と考察
過去はいつだって美しい「昔はよかった」
どんな分野でも、言ってしまいがちな言葉ですね。
「昔の映画はよかった」「昔の人付き合いはよかった」「昔の価値観はよかった」ではその「昔」に生きていた人たちは、果たして当時の現状に満足していたのでしょうか?
過ぎ去った過去は美しく、どの時代に生きていても過去を懐かしんでしまうものなのです。
人間心理をユーモアあふれた皮肉で描くことに長けたウディ・アレン監督の集大成ともいえる本作。
かつて「メリンダとメリンダ」では、人生は悲劇なのか喜劇なのかを問いかけたウディ・アレン。
憧れはその対象へのものではなくて、憧れという感情そのものへの執念であることを指摘しています。
喜劇として描かれる本作ですが、人間の愚かさを暴く悲劇にも思えます。常にその二面性を持たせるウディ・アレン監督の魅力が光る作品です。
パリだからこそ魅力の光る映画
パリでしかできなかった映画タイムトリップ映画のなかで、一番SFらしさのない映画がこの「ミッドナイト・イン・パリ」かもしれません。
光るわけでも、音がなるわけでもなく、ただクラシックカーが迎えにやってくる。
この演出はパリが舞台の作品だからこそできたものです。
1920年にも、はたまた1890年に戻ろうとも街並みが大きく変わらない...これこそパリ!パリで裏路地を歩けば、きっと誰しも自分がどの時代にいるのか迷子になることでしょう。
フランスがパリの街並みを守り抜いてきた歴史を称賛する気持ちとともに、世界一の観光客を集める街たる由縁に納得です。
それでいてこの演出によって、どこまで過去に戻っても人間は同じ思考を繰り返す生き物である皮肉が映えます。
冒頭約3分、クラリネット演奏とともにじっくりと時間をかけてパリの街並みが映し出されます。
作品を見る観客をパリへと引き込むオープニング、クラリネットの音色に誘われパリへの憧れを掻き立てます。
雨の日すら美しいそのたたずまい...この観客のパリへの憧れもまた、幻想にすぎないのでしょうか?
ウディ・アレンは監督、脚本、主演をすべてこなした映画を多く製作していますが、本作では主演をオーウェン・ウィルソンに託しています。
これまでの作品でのウディ・アレンは、同じような人物を同じように演じてきています。
まるでチャップリンのようにうだつの上がらない脚本家、あるいは作家、もしくは舞台作家。口数が多くて皮肉屋だけれどなぜか美女にはモテる、でも妻や恋人には浮気されがち。
本作のギルもそのTHEウディ・アレンキャラなのですが、オーウェンのウディっぽい演技には脱帽です。
勢いがあるけどどこか姿勢のわるい歩き方、後ろ姿のシルエット、話したいことが溢れてくるときの言葉の詰まり方。
オーウェンは当初キャスティングに名前が挙がっていなかったようですが、結果的にはウディ・アレン映画の主役として適役だったといえるでしょう。
映画「ミッドナイト・イン・パリ」の評価とまとめ
都会派監督ウディ・アレンによるパリの魅力がいっぱいつまった、皮肉もたっぷりつまった本作。
誰しもが不満をもっていて、全員が幸せな理想郷や黄金時代なんて存在しないのだということを描いています。
しかし結果として観客の心に残る感想は、「だから現代だって悪くないんだ」という肯定の気持ちです。
この現代は、自分たちが思っているほど悪くないのかもしれない。
自分の生きる現代を愛する気持ちを掻き立ててくれる、やっぱりロマンチックなウディ・アレンなのです。
今日を生きる自分の思考を支えてくれる映画こそが、見るべき価値のある映画です。
ぜひ映画「ミッドナイト・イン・パリ」、ご覧ください。
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