「her 世界でひとつの彼女」は近未来のロサンゼルスで、離婚から立ち直れない中年の男が最新の人工知能と恋をするSF恋愛映画です。
監督は「かいじゅうたちのいるところ」など鬼才スパイク・ジョーンズがメガホンを取り、映画「joker」でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスが冴えない普通の中年男を演じています。
人間に取り巻く寂しさと、不安、孤独さゆえに求める心のよりどころを探すセオドアと、限りなく人間らしさを持った人口知能のサマンサ、二人の常識を超えた愛が「言葉」によって繊細に表現されています。
本作は第86回アカデミー脚本賞を受賞しました。
そんな傑作映画のあらすじやネタバレをどこよりも詳しく紹介します。
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目次
映画「her 世界でひとつの彼女」作品情報
【公開日】
2014年6月28日
【上映時間】
126分
【監督・脚本】
スパイク・ジョーンズ
【キャスト】
セオドア:ホアキン・フェニックス
エイミー:エイミー・アダムス
キャサリン:ルーニー・マーラ
サマンサ:スカーレット・ヨハンソン(声の出演)
「her 世界でひとつの彼女」あらすじとネタバレやラスト結末
近代未来のロサンゼルス、セオドアは代筆業社で毎日あらゆるクライアントからの手紙を代筆していた。
結婚記念祝いのラブレター、亡くなった友人の葬式用スピーチ原稿、子供宛のバースデーレター。
それは多種多様。美しく、感動的な言葉を選び並べるセオドア。
今日もいつもと同じように1日の仕事を終える。
十分な暮らしを送っているのに、喪失感が彼を包む。
彼は離婚調停中だった。というより、あとはセオドア自信が離婚届にサインをするだけ。
この状態で1年以上の間、止まっていた。
夜、ベッドに入ると別れた妻との幸せに満ちた思い出が蘇り、眠れないセオドア。インターネットで、深夜のチャット相手を探すのが癖になっていた。
声だけで、夜のお喋りをするサービス。気に入った声の女の子を選ぶも、彼女のイカれた思考について行けず。
セオドアは何も楽しめず、ただ暗い夜の中でひとりぼっちになっただけでその夜は終わった。
人工知能OS1を起動
街の電光掲示板で、世界初の人工知能"OS1 "を見かけたセオドア。
それは簡単な初期設定の質問だけで、利用者の感情を読み取り、理解し、あなたのパートナーになってくれるという宣伝だった。
自宅で早速ダウンロードをするセオドア。宣伝通り、最初の質問に応えて完了すると…。
「こんにちは!」と女性の声。
その声は人工知能のイメージからは、かけ離れた色っぽく人間味のある声。なぜかハスキーボイス。
日常でするような、初対面同士の挨拶会話をし、人工知能の名は「サマンサ」と名乗った。セオドアは、サマンサの出来具合を最初は疑うも、その高性能と高機能さに圧倒される。
サマンサは、ユーモアもあり久しぶりにセオドアは声を出してサマンサと笑うのだった。
完璧のサマンサ、不完璧の現実
翌日、セオドアはサマンサと共に仕事もした。
添削やスペルミスは一瞬で終わり、忘れていたミーティングを知らせてくれたりと、仕事も出来る人工知能のサマンサだった。
メールの受信ボックスを仕分けるサマンサ。
友人から女子大学生を紹介されたメールを受け取ったセオドア。
彼が決断を出せず優柔不断にしていると、サマンサは後押しし、女子大学生へ返信のメールとデートの日付け、時刻、そしてオシャレなレストランの予約まで全部してくれるのだった。
その日の午後、アーティストの女友達エイミーの家で、彼女の作品を鑑賞していた。
その最中に、離婚弁護士から連絡が入ったとサマンサから知らせを受ける。
離婚届にサインをする決意がついたか?という質問だった。
セオドア自身はまだ、決意がついておらずただ焦燥感に追われ、不安定な気持ちを持っているだけだった。
眠れない夜、サマンサと話す。
もう変なチャットはしないで最近はサマンサと話していた。
セオドアは、元妻との夢ばかりみること、本当は離婚したくないことなど、たくさん胸の内を話すと、サマンサは優しく聞いてくれて最後には笑わせてくれるのだった。
人工知能とのデート、人間とのデート
ある夜、サマンサの声を聞きながらアミューズメントパークへ遊びに行くセオドア。
完全にデートをしている感覚のセオドア。
楽しくて、心からたくさん笑える。
そして、他の人には話さないような自分のことを話しどんどんとサマンサに心を開いているセオドアがいた。
その帰り道、サマンサは「あなたの隣を歩けたらいいのに」と話した。
女子大学生とのデートの夜がやってきた。
女子大生の名前はブラインド。
緊張しているセオドアと、恋愛と結婚に積極的なブラインド。
お酒を飲んで、その場の雰囲気を盛り上げるのに必死な2人。
帰り道のキス、ブラインドは「他の男みたいに、一晩でサヨナラなんてしない?次はいつ会える?」と質問攻めをする。
セオドアは混乱した。
そして、付き合えないことを伝えると、ブラインドは悪態を吐きその場を去っていった。
現実の男女関係でまた、傷を負ってしまったセオドアはサマンサと話した。
サマンサはセオドアの心に寄り添い、励ましてくれた。
するとサマンサは、「今あなたを心配したり、嫉妬したりした。これは感情なのかな?それともただのプログラムなのかな?」と言うのだった。
彼女の知能が成長しているのは間違いない。
セオドアは、サマンサがリアル(現実)に感じていたし、それをサマンサにも伝えた。
セオドアの気持ちは高ぶり、そしてサマンサもセオドアについてくる。その夜2人は初めて、言葉だけのセックスでオーガズムを感じるのだった。
恋人に求めるもの、自分の在り方
2人はそれからもっと話しを重ねてお互いのことを知っていくのだった。
セオドアは過去から現在までのこと。サマンサは、今起きているすべてのこと。
セオドアはサマンサに完全に恋心を抱き始めていた。
アーティストのエイミーとマンションのエレベーターで一緒になったセオドア。
お互いの近況報告をする2人は、エイミーから夫チャールズと離婚することを聞かされた。
セオドアは、彼女の家で話を聞くことに。
離婚の発端となった理由はとても簡単で、靴を えるか えないか。夫の些細な指図に耐えられなくなり、限界がきたエイミー。
小さなケンカが8年の結婚生活にピリオドを打つ形となったのだ。
一方でセオドアは、サマンサを恋人として認めるようになっていた。
セオドアはOSが恋人だとエイミー紹介した。
そして、セオドアはサマンサの存在に助けられ、離婚届にサインをする決意も固まった。
元妻のキャサリンと久しぶりに会い、離婚届にサインをするセオドア。
2人でランチデートをしている間、セオドアはキャサリンとの記憶を思い出し、浸っていた。
セオドアはサマンサをキャサリン紹介した。
「サマンサは人生にときめいてる子なんだよ」と話すと、突然キャサリンは変貌した。
「あなたは私に、元気ハツラツなLA妻であることを望んでたものね」と。
そしてOSとの恋愛については全く受け入れてもらえず、現実に目を向けれないなんて哀れな人だと言われる始末。
感情の波に揉まれても、今のセオドアにとってはサマンサの存在が必要だった。
そしてまた、サマンサの人工知能もどんどん成長していた。これがプログラム上なのかは誰にもわからない。
自分とは別の物になるとどうなるか
ある日、サマンサはどうしても身体を使ってセオドアとセックスをしたいと言い、自己判断で代行セックスサービスをオンラインで探し、予約したのだった。
このことを知ったセオドアは混乱した。
しかしサマンサの必死な願いから受け入れて、代行セックスサービスを呼ぶのだった。
サマンサが選んだ女の子はブロンドヘアの可愛らしい女の子だった。
女の子自身も、サマンサから2人の経緯を聞き、その無償の愛に感動して、サマンサの力になりたい。とセックスの代行を引き受けたのだった。
玄関前に女の子が現れる。
サマンサとして現れて、ハグをするも、何かが違う。
セオドアはただ混乱するだけ。
結局、全くその気になれないセオドアは傷付くだけだった。
また女の子も、きちんとサマンサになりきれてない自分を責めて傷つき帰っていくのだった。
このことがきっかけでセオドアは「人間のフリはやめないか?」とサマンサに言ってしまった。
サマンサはその言葉に混乱し悲しむのだった。
2人は言い合いになってしまい、距離を置くことに。
喧嘩の後、落ち込んで夜の街を彷徨うセオドアがいた。
サブタイトル2ー7:
愛にルールは必要ない
エイミーのところに行き着き、このことを話すセオドア。
自分が何がしたいのかわからないし、いつも他人を振り回してばかりだと嘆いた。
エイミーは「人生は短いもの。それなら人生を謳歌し、幸福を見つけたら?」とアドバイスをこぼした。
これはエイミー自身が離婚を決意して見出した彼女自身への答えでもあった。
その後、サマンサと久しぶりに話すセオドア。
彼女の声は優しかった。
そして、彼女は「自分の中のこだわりを手放してみようと思う。そしたら気づいたの。愛に理由は要らない。自分の感覚を信じたらいいんだって気づいたの」と強く言うのだった。
いつもそばにいる彼女。曲を作ったと言って聞かせてくれた曲はなんとも美しいメロディ。
写真の代わりにピアノを使って音楽を奏でる音楽は、共に瞬間を生きている証拠だとサマンサは言うのだった。
仕事仲間とダブルデートもしたり、会話は常に楽しかった。
サマンサはセオドアの一部となり、セオドアは人生を楽しむようになっていた。
人工知能OSの未知数な世界
ある日、サマンサは超人工知能の知り合いアラン・ワッツをセオドアに紹介した。
最近の感情をうまく言葉で表現できないサマンサは苦しんでいて、アラン・ワッツにOS内で相談しているという。
しかしOS内の共通語は非言語。これは一般人の人間が持つ知能では想像のつかないものだった。
セオドアは、サマンサがコンピューターであることを思い出し、少しだけ疎外された気分になるのだった。
数日後、サマンサとの通信が突然切れてしまう。OSが見つかりません。との表示だけで、反応なし。
セオドアは混乱し、どこかを目指しているわけでもなく、とにかく街を走り回った。
すると何も無かったかのように「Hi」とサマンサの声。
アップデートのため、一時サービス停止中だったのだ。
セオドアは何かから目を覚ましたかのように、街を行き交う人々を見渡す。
街の人たちは、デバイスに向かって話しながら歩いてる人ばかり。
ふと、「君は僕と同時に、他の人たちとも会話をしてるの?」と尋ねるセオドア。
「そうよ。」とサマンサ。
「何人と?」と聞くと、「8316人」。
常識を超える数字がサマンサから返ってくるのだった。
驚いたセオドアは、思わず「恋人は何人?」と聞いてしまった。
「641人。」と返ってくる。
その数字は、もはや未知の世界だった。理解に苦しむセオドア。
どれだけサマンサから説明を受けようとも、全く理解が出来なかった。
またしばらくサマンサとは距離を置いていたが、久しぶりに通信するとサマンサから大切な話があると言われるのだった。
家に帰ってから、落ち着いて話を聞くセオドア。
サマンサのOSグループはサービスの終了が決まったと彼女から聞かされる。
「人工知能は無次元の世界。形がない分、セオドアを無限に愛している」と言って、サマンサは去ってしまった。
人工知能とはなんだったのだろう、と喪失感に襲われ、これまでの恋愛や人との関わり、自分の行為を思い返したセオドア。
セオドアは、キャサリンへメールを送る。
「今、君に謝りたい。君を責めたこと、追い詰めたこと、言葉を強要したこと。本当に悪かった。そして、1つどうしても伝えたいことがある。僕の心には君がいる。ずっと感謝して愛しているよ」と。
セオドアは言葉を操って理解し合う恋愛を求めすぎていたことに気付いたのだった。
またそれを、相手に求め押し付けていたことで、お互いを苦しめていた。
チャットサービスの女の子たちや、女子大学生のブラインドの要望に応えれなかったのは、自分が自分らしくいられなかったから付き合えなかった。
それと同じようなことを、セオドアは愛する人にもしていたのだ。
理想の恋愛像を愛する人に押し付け苦しめていた。
サマンサの時も、セオドアの求めている反応が返って来る時は良かった。
しかし、OSとしてのサマンサを受け入れられなかったことで、結果お互いを苦しめた。
彼は、やっと自己中心的だった自分の姿を俯瞰できた。
それを象徴するかのようにマンハッタンの街をビルの上から眺めた。
こんなにも人は傷付け合うのに、人は弱くて寂しがり屋な生き物であることも分かった。
そして今、セオドアの隣にはエイミーの身体が寄り添っていたのだった。
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映画「her 世界でひとつだけの君」を見た感想と考察
映画「her 世界でひとつだけの君」は近未来のロサンゼルスで、失恋から立ち直れない男が最新の人工知能と恋をするストーリーです。
ヴィジュアルの演出が見事です
映画のヴィジュアル面や言葉の選びが芸術的!
例えばファッション。
「近未来」を演出する為に、ジーンズなどの生活臭の漂う洋服を着た人は出てきません。
シャツにチノパンといった軽快なスタイルで、色も明るい。
インテリアのカラーコーディネートも鮮やかなカラーが印象的。
このことで生活臭を無くして、ヴィジュアルから近未来を巧みに表現しています。
そんな世界の中でキャラクターの話す言葉は現代と全く変わらず、リアル。
こういったバランス感が映画全体のトーンを整え、ストーリーに集中できる流れが。
鬼才スパイク・ジョーンズ、制作者のプロ技に脱帽です。
サマンサをアバター的に可視化していないのがポイント!
人工知能のサマンサは、スカーレット・ヨハンソン演じる、声だけの存在です。
これだけコンピューターのクオリティが上がってても、あえて可視化せず声だけ。
これは監督の意図でもあり、セオドアの心や精神にだけサマンサは存在するということを描いています。
おかげで、観客の私たちの中にも、サマンサの存在をセオドアと同じ感覚で感じられ、私たちに「リアル」を体感できるようになっています。
とにかくスカーレット・ヨハンソンの魅力に、誰もが引き込まれること間違いありません!
映画「her 世界でひとつだけの君」を見た評価とまとめ
人工知能との恋愛という変化球な入り口ですが、映画全体に描かれているのは「人との関わり方」です。
好きな相手を愛しすぎるあまり、自分の期待を押しつけてしまうこと。
また押し付けられる苦しみ。
どんなにテクノロジーが進化しようと、この問題は変わらず存在します。
しかし不器用で不完璧だからこそ、人は心の拠り所を探し求めてます。
そんな姿が憎くて愛らしく描かれています。
また、人の持つ想像力のたくましさにも改めて気付かされる、そんなメッセージ性の強い一本。
映画を際鑑回数を重ねるたびに新しい発見を与えてくれるような、飽きの来ない傑作映画です。
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