第85回アカデミー賞、監督賞ノミネート作「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」。

トラと共に大海原を227日漂流し、そして生還したインド人の少年パイ。

まるで実話にありそうな話ではありますが、実際は原作のあるフィクション作品なのに、どのように生きながらえたかなど、引き込まれる映画です。

波のひとつまで演出する意図で惜しみなくCG映像が用いられた画の美しさと、生命の在り方を問う哲学、人間にとっての神の意義を考える宗教学とが融合する唯一無二の傑作。

これは、決してサバイバル映画ではないのです・・・!

それでは、映画「ライフオブパイ トラと漂流した227日」のネタバレあらすじ結末や感想考察と評価など、総合的な情報をお届けします。

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映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」の作品情報

【公開日】
2013年1月24日(日本)

【上映時間】
127分

【監督】
アン・リー

【製作】
アン・リー
ギル・ネッター
デヴィッド・ウォマーク

【脚本】
デヴィッド・マギー

【原作】
ヤン・マーテル「パイの物語」

【出演者】
スラージ・シャルマ(パイ・パテル)
イルファーン・カーン(パイ・パテル 成人期)
アーユッシュ・タンドン(パイ・パテル 12歳)
ゴータム・ベルール(パイ・パテル 5歳)
アディル・フセイン(パイの父)
タッブー(パイの母)
アヤン・カーン(パイの兄 7歳)
モハマド・アッバス・カリーリ(パイの兄 13~14歳)
ヴィビシュ・シヴァクマール(パイの兄 18~19歳)
シュラヴァンティ・サイナット(アナンディ)
レイフ・スポール(小説家)

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のネタバレとあらすじ

信心深いパイ少年の生い立ち、カナダへ移住する家族

インドはボンディシェリ、動物園を経営する家族に生まれた少年。

本名はフランス語でピシンといいますが、おしっこを意味する言葉と発音が似ているため自分で名前を変えています。

数学が得意なピシンは学校で天才的な円周率暗記を披露し、以降パイ(π)と名乗っていました。

家族はヒンドゥー教徒でしたが、キリスト教の教会を訪れたことをきっかけに垣根なく様々な宗教に興味をもったパイは、様々な神に祈りをささげる風変りな少年でした。

聡明に成長し17歳になったパイは初恋も経験し、平凡に人生を過ごしていました。

しかしある夜父から、動物園を閉園すること、売り物になる動物たちをつれてカナダに移住することを宣告されます。

父の決断に逆らうこともできず、母国に後ろ髪惹かれながらもパイは家族と共にカナダへ向かう貨物船へと乗り込みます。

ある真夜中のこと、嵐が貨物船を襲い沈没。

就寝中だった家族とは顔を合わせる暇もなく、パイだけが救命ボートで助かります。

生き残りがたった一人であることを嘆くパイでしたが、ボートには動物たちがいました。

唯一の生存者はパイ、そして救命ボートにはベンガルトラが・・・

嵐が去るのを待ってボートから這い出てきたのは、シマウマ、ハイエナ、オランウータン。

ハイエナはすぐに怪我をしていたシマウマを殺し、ハイエナに怒った雌のオランウータンは反撃を試みますがやはり殺されてしまいます。

そこへ飛び出してきたのが、大きなベンガルトラ。

最後までボートの奥底に隠れていたトラは、飛び出すないなやハイエナを食い殺しました。

このトラの動物園での名は、リチャード・パーカー。

パイは幼少の頃にリチャード・パーカーの恐ろしさを父から厳しく教育されており、トラウマも相まって恐怖の対象でした。

興奮したリチャード・パーカーと同じボートの上にいることはできません。

パイはボートに設備されていた遭難用具を使って小さなイカダをつくり、ボートからの距離を保つことでリチャード・パーカーから自分を守る環境を作るのでした。

トラとの奇妙な共存関係、命の危険からうまれる生きる力

遭難には終わりがなく、救出が来る気配もありません。

どうにかその一瞬の命を繋いでいくために、パイはあらゆる工夫をこなしてゆきます。

リチャード・パーカーの空腹を満たさないことには自分に危険が及ぶため漁を行い、食料を分け与え、共存のため必死です。

船の上で自分の身を守るためにすることがたくさんあったこと、リチャード・パーカーとの距離を保つ緊張感があったこと。

それらは命がけでありながら、命を長らえる材料にもなっていました。

絶望感の中にいながらも母なる海は美しく、海の生き物たちは幻想的、口を利かないトラとの奇妙な共同生活がパイの生命線になっていました。

美しき人食い島、パイは幻想を見ているのか?

漂流生活が長らく続いたある日のこと、パイは無人島を見つけます。

寝釈迦像の形をした美しい島で、そこには新鮮な水とミーアキャットの大群がいました。

久々の陸地に身体を休め、渇きを潤すパイとリチャード・パーカー。

楽園にも思えた無人島でしたが、夜がくると姿は一変して、水は酸性にかわり、生き物の肉を溶かします。

そこは島全体が動物を食べる人食い島で、長くはいられないことに気が付いたパイは再びボートへ。

ミーアキャットを食料にどうにかここで生きていく道もあるリチャード・パーカーでしたが、パイの待つボートへと戻ってきてしまいました。

ふたたび始まった1人と1匹の漂流の日々、パイの命は極限を迎えようとしていました。

パイが語るふたつの物語、あなたはどちらを選択しますか

そしてとうとうボートはメキシコの岸へと漂着します。

227日を共存したリチャード・パーカーへの情が、別れを迎えたパイの心を締め付けます。

メキシコの森へと立ち去ったリチャード・パーカーの後姿にむかって、泣きながら名前を叫ぶパイでしたが、リチャード・パーカーがパイを振り返ることはありませんでした。

海辺で救助され病院へ搬送されたパイ。

沈没の原因を突き止めようとやってきた保険調査員は、唯一の生存者であるパイに何があったのか、どのように生き延びたのかを訪ねます。

動物たちと自分だけがボートに逃げ込めたこと、トラと共存しながら227日を過ごしたことを淡々と語るパイ。

しかしあまりに突拍子もないパイの話は、保険調査員たちには作り話にしか聞こえません。

いぶかし気な調査員たちに、これが信じられないのならとパイはもうひとつの話を聞かせます。

難破時、ボートにはフランス人のコック、仏教徒の船員、パイと、パイの母親が乗り込んだ。

コックは怪我した船員の足を切断し、その足で魚釣りを始めた。

船員は死に、怒ったパイの母はコックに詰め寄るが逆上したコックに母は殺されてしまった。

母を守れなかった怒りからパイはコックを殺し、そのあとはひとりで漂流していた。

ふたつの物語からひとつを選んで報告書に書けばいい、と言い放つパイ。

報告書には、トラと漂流した少年の記録が残されることとなりました。

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映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」の感想と考察

トラの名前がリチャード・パーカーである必要性について

5熱心な推理小説ファン、あるいは海洋関係に精通した人は、本作においてトラがリチャード・パーカーと名付けられる冒頭で、物語の方向性に勘付く人もいることでしょう。

なぜこのような仰々しい名前が与えられているのか、それには物語を読み解く重要な理由が込められています。

ミステリー小説家として有名なエドガー・アラン・ポーが1837年に発表した長編恐怖小説「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」。

4人の男が海を漂流する物語です。

小舟上にて物資が尽き、仲間に殺されて食料にされる哀れないけにえ、その水夫の名前がリチャード・パーカーです。

そしてそのフィクション小説の発表から47年後の1884年のこと、イギリスからオーストラリアへ向かう船が難破し4人の男が漂流する実在事件が発生します。

漂流20日目に海水を飲んだことで衰弱し、仲間に殺されて食料となった水夫の名前が、なんとリチャード・パーカーでした。

なんとも奇妙な偶然。

この事実から、水夫の間でリチャード・パーカーとは遭難とカニバリズム(人肉食)の悲劇を連想させる不吉な名前なのです。

本作のなかでパイは直接的に人肉食という発言はしていませんが、状況からそのように連想させられ、極めつけにはこのリチャード・パーカーの逸話です。

トラと漂流した困難という作り話が心の救いになるほど、壮絶な選択を迫られたパイの体験が読み取れます。

円周率の人生、というタイトルから読み解く「パイが語るストーリー」の意図

主人公パイは、本名のピシンという名を良く思っておらずパイと自称しています。

パイは「π」、つまり円周率を意味していることは本作の中で説明されています。

ライフ・オブ・パイは円周率の人生、割り切れず不条理なことだらけなのが人生、割り切れない人生を語るストーリーなのです。

パイはさまざまな宗教に興味をもち、ヒンドゥー教、仏教、キリスト教、イスラム教、あらゆる宗教を信じると共に疑問をも感じています。

一神教として信じているというよりは、多面的かつ理論的に各宗教をとらえようとしているように思えます。

しかしそうしてあらゆる神との対話を試みるパイにも、不幸はやってくる。

家族との突然のわかれ、漂流、そして初めて人を殺めてその肉を食らったこと。

神からの試練として受け止めるにはあまりに不条理なことが、時として人間を襲います。

そんな受け入れがたい出来事がありながらも、自分の命を繋ぎ生きていかなければならない・・・そんな現実を噛み砕く方法としてパイが選んだのが、物語を作り上げるという方法だったのです。

映像作家アン・リーの深層テーマとは?

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」は、台湾出身のアン・リー監督作です。

アカデミー賞をはじめさまざまな映画祭でノミネート、受賞の嵐を巻き起こす巨匠ですが、映画ファンの観客たちはアン・リーのあまりにも多様なスタイルに翻弄されています。

「恋人たちの食卓」では、父と三姉妹のホームドラマ。

「グリーン・デスティニー」では、中国武術をワイヤーアクションで表現。

「ブロークバック・マウンテン」は、カウボーイの同性愛のヒューマンストーリー。

「ラスト、コーション」では官能を惜しみなく映像表現。

そして本作では、トラと少年の漂流物語。

監督の作家性への理解を深めようとすると、どうしてもあらゆる作品に通ずる「一貫性」を探らざるを得ないのですが、アン・リー監督作品からはその一貫性を見つけ出すのに苦労します。

あまりにも多方面への才能、いつも違う作風へのチャレンジを惜しまない監督であると言えます。

しかしながら監督本人のインタビューによれば、どの作品においても「イノセント(純粋無垢)の喪失」という深層テーマがあることを告白しています。

このキーワードは作品を理解する上でとても重要な言葉なのではないでしょうか。

初恋に心焦がす少年ではいられなかったパイの、イノセントの喪失。

悪意なく本能に生きるトラのリチャード・パーカーは、本作における純粋さの象徴でしょう。

漂流の末ついに岸へとたどり着いたのち、パイは振り向くこともなく去りゆくリチャード・パーカーに号泣していますが、あれは理不尽で割り切れない現実世界で無垢さを失った己への涙なのです。

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」の評価とまとめ

筆者にとって、数年に1度ともいえる「理解を深めるために見返したい」映画です。

映像美を楽しむつもりで、心の準備ができないままにエンディングに驚かされた1回目。

宗教家としてのパイの行動を読み解くための2回目。

パイが見る幻想に反映される制作の意図を探して3回目・・・といった具合。

それでもまだまだ理解が及ばずに「深そうだけど底が見えない」部分がたくさん残されていることが、本作における魅力なのです。

うっとりするような動物園のオープニングから360°のオーシャンビューなど、映像そのものの美ももちろん見所であり、幅広い客層へ満足感を与えます。

それでいて映像美だけでは終わらせない哲学をも問いかける、映画ファンを唸らせる1本です。

フランスに精通したカナダ人の小説を、台湾人監督がインド人俳優と作り上げたアメリカ映画。

国際色豊かな本作・・・世界違えど、神も違えど、人間の本能は同じであることを、制作背景からも感じることができますね。

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